7/19 ベトナム便Light レポート

5月1日より上映中の日本・ベトナム共同制作による長編映画「海辺の彼女たち」。今回は同作との緊急特別コラボ企画として開催しました。映画館「ポレポレ東中野」での上映は3か月に及ぶロングランとなり、上映される劇場は全国50か所以上に広がっている話題の映画です。

「彼女たち」とは、この国で技能実習生として働くベトナム人の女性3人です。過酷な職場から脱走し、ブローカーを頼って北国の海辺で再び働き始めますが、不法就労であるがために、辛い決断をせざるを得ない苦境に陥ります。実話に着想を得たストーリーは、「まるでドキュメンタリー!」と思えるリアルさで、(彼女たちはどうなってしまうのか)と憂えずにはいられなくなりました。

そこで今回、技能実習の現場から失踪した当事者や、失踪者の支援者に実際に取材し脚本を練り上げたという藤元明緒監督に、本作に込めた思いをお聞きしました。

日本の産業はベトナム出身の技能実習生に支えられている

本題に入る前に、「技能実習制度とはなにか」、「技能実習生はどのようにして日本に働きに来ているのか」などについて私が調べたことを共有しました。日本は、技能実習制度の目的を、「技能・技術または知識の開発途上国等への移転であり、人づくりである」と定めています。同時にこれは実習であり、「労働力の需給の調整手段」ではないことを基本理念としています。ですが、その理念とはうらはらに、約束と違う労働条件を強いられて、失踪する人が後を絶たないのです。

厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)

令和2年度の統計では、技能実習生は約40万人。全外国人労働者のおよそ4人に1人です。また技能実習生の54%がベトナム出身者です。最も多い業界は製造業。次に多い建設業は、技能実習生の労働力に依存している割合が最も多いことが、業種別の統計からみて取れました。受け入れ先の企業が直接採用をする事例は極めてまれです。受け入れ企業の半数以上は19人以下の零細企業であり、実態としては、事業協同組合や商工会などが組織する監理団体が、途上国の送り出し機関と契約し、受け入れ企業へ派遣するシステムができあがっています。

なぜ日本で働きたい技能実習生が多いのか。技能実習生はベトナムの中でも所得の低い農村部の出身者が多いです。たとえ渡航のために借金をしたとしても、日本で働けばそれ以上稼げるのです。家族にも送金もできる。そして帰国後は習得した技能や日本語能力によって高給の仕事に就く可能性も高まります。

「労働力」として呼ばれた時、人間の尊厳のうち何を失うのか

ミャンマー出身の方と結婚したこともあり、日本で働く外国人が経験していることを増して身近に思うようになった藤元監督。日本に「労働力」として呼ばれたら、人間的な尊厳のうちなにを失っていっているのか、を主題にすることにしました。主人公をベトナム人の技能実習生に設定した理由は、「実習先から逃げたい」との声を、監督が実際に受けた体験からでした。脚本づくりのための取材には、日越ともいき支援会の協力を受け、「海辺の彼女たち」が生まれました。

映画のストーリーでは「彼女たち」の一人が、体調を崩してしまいます。しかし身分証を前の職場に預けたままのため、病院で診察を受けられません。不法就労がばれたり、健康の問題で働けなくなることを恐れながらも働き続けることを選ぶ葛藤が描かれています。現実には、帰国させられることを恐れ、妊娠を言えず孤立出産をした実習生がいました。藤元監督が映像作品によって光をあて、伝えたいこととは、「声を上げられず、自分の生き方のハンドルを握られてしまっている存在がいるということ」です。

このような思いから、支援チケットの売上は全て、熊本地裁で遺棄致死罪と判決された、技能実習生の弁護を呼びかける団体である「コムスタカ―外国人と共に生きる会」に寄付することにしました。

料理から知るベトナム

重い社会課題の話題から大きなふり幅で、LunchTripには欠かせない、グルメの話題に移りました。ベトナムは南北に長い国で、北のハノイと南のホーチミンは1600km離れています。料理紹介は、藤元監督が撮影中に食べた、ベトナム人女優3人が作ってくれた料理と、Kazueが都内で食べて印象深かったベトナム料理でした。一口にベトナム料理といっても、風土や歴史背景からくる地方ごとの違いがあります。ベトナムの一人当たりの米消費量は日本の倍以上、というトリビアもリサーチしました。

身近にあるのに聴こえない声を伝える

映画作りで追い続けたいテーマは、「普段は埋もれていて聴こえない声を伝えること」という藤元監督。技能実習生を取材する中でも、誰にも言えない孤独感を多くみたそうです。2018年公開の前監督作品である「僕の帰る場所」もそうでしたが、「遠い世界のことではなく、観る人にとっても自分に身近なこととして考えるきっかけとなるような映画作りを続けていきたい」といいます。次回作の構想も教えてくれました。これからも日本とアジアの国をつなぐ作品を生み出す国際映画監督として、活躍が期待されます。

コロナウイルスとのギリギリの戦い

アフタートークでは、監督に撮影秘話をたっぷり話してもらいました。クランクインは昨年2月で、なんと、ダイヤモンドプリンセス号の停泊する横浜でした。そして、もしクランクアップが1週間遅ければ、ベトナムがロックダウンになり、女優3人も帰国できなかったであろうギリギリの状況でした。

また、劇場公開3日前に緊急事態宣言が発令されたため、劇場封鎖の情報も飛び交い、上映が危ぶまれました。客席半減の対策により予定どおり上映が出来ましたが、もし公開が延期になったら、その日に合わせた宣伝も無駄になってしまうところでした。東京の上映期間のほとんどが緊急事態宣言下にあり、まさにコロナ禍とともにあった上映の裏側を知ると、いっそうこの映画が味わい深くなります。

身近にあるのに聴こえない声を伝える

映画作りで追い続けたいテーマは、「普段は埋もれていて聴こえない声を伝えること」という藤元監督。技能実習生を取材する中でも、誰にも言えない孤独感を多くみたそうです。2018年公開の前監督作品である「僕の帰る場所」もそうでしたが、「遠い世界のことではなく、観る人にとっても自分に身近なこととして考えるきっかけとなるような映画作りを続けていきたい」といいます。次回作の構想も教えてくれました。これからも日本とアジアの国をつなぐ作品を生み出す国際映画監督として、活躍が期待されます。

映画をきっかけにできることとは

「映画は、入り口として、観たあとの感情を共有するだとか、アクションのハブになり得ます。何かしたいと感じる人も多くいると実感しています。そして、小さいことでも粘り強く制度を変えていく声にしていくことが大切ではないでしょうか。どんな制度を使っても問題は起きます。重要なのは、問題が起こった後のケアです。そのケアをしている団体や人のサポートは個人ですぐできることですよね。」


「海辺の彼女たち」は、日本に暮らす外国人の存在について改めて意識を向けるきっかけとなった映画でした。まだまだ上映は続いています。お近くの劇場でぜひ鑑賞いただき、藤元監督の映画にこめたメッセージを体感ください。藤元監督には、前作、これからの作品についても再びお聞きできる機会があればと思います。

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録画版をアンコール配信します(2022年4月13日追記)

ガイドの藤元監督が、第3回大島渚賞、第31回日本映画批評家大賞・新人監督賞を受賞されました。大島渚賞受賞式の記事をご紹介します。https://natalie.mu/eiga/news/472642
これを祝して、当イベントの録画版をアンコール再配信しています。
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是非お楽しみ下さい。