パレスチナ西岸地区便 ~報道されない日常を見つめて~開催レポート

2023129日、十条にあるパレスチナ料理店ビサンにて、ディナータイムのLunchTripを開催しました。ガイドは、パレスチナに通って20年以上、人々と交流して占領下の暮らしを撮り続けてきた写真家、高橋美香さん。メディア対応で多忙のところ、受けていただきました。ガザとおなじくパレスチナ自治区であっても報道が少ないヨルダン川西岸地区の町にスポットをあて、人々の暮らしの実態について聞きました。

写真を見ながらパレスチナの一人一人の暮らしを知る

パレスチナにもう一つの帰る場所をもつ美香さんのお話は、報道では語られない貴重なジャーナリズムです。ガザのように連日空爆に晒されている状態ではないものの、常にイスラエル入植者とそれを守る軍との緊張にあり、命の危険と人権侵害に晒され、静かにコミュニティーが殺されているのです。

ヘブロン

行政権・警察権ともにパレスチナ自治政府が実権を持っているA地区ですが、さらにパレスチナの自治権があるH1地区と、イスラエルの管理下にあるH2地区に分けられている特別な町です。H2にある旧市街はイスラエル軍が常駐しており、パレスチナ人は行動制限を強いられています。そうしてパレスチナ人の生活の場は侵食され、住めなくなってしまうのです。

ビリン

村の半分を入植地に奪われています。分離壁反対のデモが続いています。美香さんは、その取材でアブラーハマ家と出会い、居候させてもらうことになります。

分離壁近くに畑を持つ人はイスラエル人に土地を奪われないよう、耕し続ける男性。外でパンを焼き、自分たちが暮らす場所であるとささやかに抵抗を示す女性。分離壁反対デモには毎週イスラエルから通ってヘブライ語で訴える男性もいます。

ジェニン

2002年、イスラエルによる「防衛の盾作戦」により、難民キャンプを包囲されて空爆され、多くの一般市民が殺された北部の町です。当時のことを取材に訪れた美香さんは、アワード家に滞在することになり、マハと出会います。2013年は多くの死に包まれました。美香さんは、希望とは何か、を考え抜いた先に、オリーブを植えることを提案します。

***

「ジェニンで2002年当時のことをインタビューした際『お前なんかに話して何になるんだ?』と言われ、少しでもアラビア語が分かったことが悲しかった。」

「パレスチナの人は言います、『お金も援助も欲しいわけではない。ただ、故郷を返して欲しい。故郷に帰りたい。そう願って死んでいったおじいちゃん、おばあちゃん、父の人生を返して欲しい。』と。ガザはその人口の8割が難民です。そういった人々の子孫が押し込められているのです。」

***

美香さんには、これまでの著書である、『パレスチナに生きるふたり ママとマハ』、『パレスチナ・そこにある日常』、『それでもパレスチナに木を植える』に綴った体験のエッセンスを、1時間に凝縮して語っていただきました。著書には、旅のエピソードや背景にあるパレスチナ情勢の基本知識もわかりやすく書かれてあるので是非読んでいただきたいと思います。

美香さんの写真を見ながら、体験をつぶさに聞くことで、パレスチナの人々のひとりひとりを思い描くことができました。著書、写真プリントも多くの方が購入されました。今後も美香さんの活動をサポートすることにより西岸地区の日常占領下で抑圧されている人々に連帯できればと思いました。

温かなサービスでいただいたパレスチナのお母さんの味

2部はパレスチナ料理を楽しみました。コロナ禍を超え、3年8か月振りのレストラン開催でした。15名定員のお店で密ではありましたが、みんなでお料理を食べる喜びを感じることができました。

東エルサレム出身のスドゥキさんは、日本に来て18年です。2011年、自ら内装も手掛けてビサンを開業しました。ビサンのお料理は全てパレスチナのお母さんの味です。若い時から働くために実家を出て暮らしていたスドゥキさんは帰省の度に少しずつお母さんからレシピを教えてもらったそうです。

~DinnerTripスペシャルコース~

スープ/サラダ

ペースト盛り合わせ:ホンムス(ひよこ豆)・トルキシサラダ(トマトと玉ねぎ、スパイス)・ムタッバラ(ナスとにんにく)・バクドニスィーヤ(ナスと練りごま)

  

ピタパン

オリーブ5種

シュシュバラック(ヨーグルトソースの水餃子)

ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)

ローストチキンとバスマティライス

なんと最後に、サプライズで、マクルーバを提供くださいました。大鍋の炊き込みご飯で、盛り付けは鍋をさかさまにする(マクルーバ)、晴れの料理です。家族大勢で囲んで一緒に食べる、パレスチナ人なら誰でも好きな料理です。

 

お料理の味はもちろん、「おなかいっぱいになって帰ってほしい」と温かなサービスと明るいお人柄にも、もう10年以上この十条の商店街で愛されている理由がわかりました。

パレスチナ問題を気にしてくれているみなさんには心から感謝しています。

パレスチナの平和と自由のため、これからもみなさんの応援お願いします。

またパレスチナ料理をいつでも食べに来てください。 

―店主 マンスール・スドゥキ

今回はLunchTripコミュニティーとガイド関係で先行してチケット販売をして早々に売り切れたため、搭乗いただけない方が多数いらっしゃいました。是非ビサンに行ってお料理を食べ、フレンドリーな店主とお話してみてください。録画視聴版も配信します。

▼申込3/10まで・非公開YouTube▼

https://peatix.com/event/3850420/

これからもパレスチナから目を逸らさない

現在、ガザの惨状も悪化の一方です。もう4か月も停戦のための対話すらできておらず、命綱でもあるUNRWAへの資金拠出も途絶え、飢餓が起こっています。国内では能登大震災の被害も甚大で被災地のニュースが第一となっていますが、パレスチナの状況も目を逸らさず一日も早い人道危機の解消を願いたいと思います。LunchTripはガイドとのつながりを大切にしています。また、高橋美香さんの活動報告がある際には企画したいと思っています。

★毎日新聞1/17夕刊に当イベントでの取材記事が掲載されました★
”ガザ侵攻前も惨劇が日常 パレスチナ取材20年超、写真家・高橋美香さん”
https://mainichi.jp/articles/20240117/dde/012/030/008000c